またにてぃsaxプレイヤーの妊娠・出産記

2.またにてぃ演奏家

 とまあ、そんなつわりの中、初めて妊婦であり演奏家である、という状況になったわけである。つわりが始まる前は、妊娠と演奏活動の両立?というものをかるーく考えてた、というのが実際のところ。もともと先の事をあんまり気にしない、「なるようになるでしょ」という持ち前の、良く言えば楽天的、悪く言えばなんにも考えてないというのが私の性格なのだから。

 実際妊娠してるからといって、演奏活動にはどうということはない、というわけにはいかなかった。つわりのしんどさもあるが、なにより体力と集中力が全然ちがった。ひとつの本番をこなすのに十分に体力と集中力を配分するのにずいぶんと工夫をしてたように思う。こんなときには演奏を終えて、「今日のはこういうところがいけなかったなあ」などと反省する余裕もない。とにかく終わったらはやく帰って休みたい、とそれだけを考えていた。思えばずいぶんとお客さんに失礼な状態だ。

 だけど本番というのはもちろん疲れはいつもよりずっと早くきたけど、演奏中だけはふしぎとムカムカ君がぴた、と止まったのである。あるとき、ひょっとしてお腹の子が本番中はがんばってくれてるのかも、(そんなわけはないんだけど)なんて都合のいい様に考えて、よーしがんばるぞ、という気になった。それになにより、舞台に立っても自分一人じゃない、という気持ちになれた。

 じっさい、妊婦さんにとってつわりの時期が一番つらいのに、見た目には妊娠しているようにはみえない。疲れきって乗る満員電車で席をゆずられることもなければ、仕事先でも妊娠していることを知らない相手の前では絶対にしんどそうにできないし、甘えることができない。その時は「大丈夫、大丈夫」と自分にいいきかせ、なるべくつわりを意識しないように、自分は普通なんだと思うようにしてたけど、今から思えば、ふつうの時より何倍もしんどくて、つわりが終わるのがまだかまだかと待っていた、というのが本音。この時期を乗り越えられたのは、本当に夫や家族の助けがあったからこそと思う。とくに夫には随分甘えて、毎日しんどいしんどいと言ってたので、かなり心配をかけてしまって「仕事なんとか休めへんのか」と言わせてしまう始末であったが(^^;

 そんな中で、どんなにしんどくてもお腹の子を愛さなくちゃ、と思うことが一つの心の支えになっていた。自分がこれからずっと演奏を続けていく中、この子はずっと私を見ていく。それにもうそれは今から始まってるのかもしれない。母親としてというより、一人の人間として、大人として、子は親という人間を、ようく見ているものなんだから。

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